平成23年度事業報告

 

平成23年度(2011年度)事業報告

 
[委託開発]前年度3月11日に発生した東日本大震災の影響により、年度前半では、委託契約に伸び悩みがあった。後半には、復興支援、復興による新たな課題により、委託契約の回復が見られた。結果的には、契約額1,000万円を超える大型案件は1件あり、500万〜700万が2件300万〜500万が2件、100万〜300万が22件であった。中規模の案件は順調で、最終的に予算を達成することができた。これらの内、REAL(労研式人間工学的評価と教育)の枠組みに該当した案件は8件あり、委託獲得に大きな役割を果たした。しかしその一方で、前年と同様に委託遂行にあたって人員的には苦しい状況が続いており、今後、外部研究者とのネットワークを通じた研究チームづくりのさらなる強化や、ポスドクの確保など、新しい調査研究の進め方で、最小限の負担で必要な人員を確保する取り組みが必要である。また、マルチクライアント方式による受託調査研究のスタイルを模索し、新しい受託研究の感触を得ている。
[国際協力案件の発展]前年度に引き続き、JICAプロジェクト「ブルンジ国母子保健能力向上を目的とする医療施設能力強化プロジェクト」の一部を担当することで、契約額が大きく伸びた。この案件には、労研がこれまで培ってきた「参加型労働改善トレーニング」のノウハウが生かされており、新たな事業展開の可能性が発展した。また、これまでの労研の実績が評価され国際労働機関(ILO)が世界的に展開を検討している農業労働における職場改善と産業安全保健課題解決ツールとしてのグローバルマニュアルの執筆等のコンサルタントの受託案件も続いている。金額は多くはないが、国際的な信頼を得た取り組みを進めていることは、公益法人化に伴って掲げた国際協力に関する取り組みの柱となっている。
[競争的研究資金]競争的研究資金では文部科学省科学研究費補助金12件(継続4件、新規8件)が採択された。例年と比較して件数、研究費いずれも躍進と言える。新規の2件は400万円を超えるもので、いずれも獲得した研究者の受託調査研究の成果の上にたった研究テーマであった。また、「日本人の労働と生活の歴史における労働科学的学術記録の収集と保管、公開に関する研究事業」として応募した文部科学省科学研究費補助金(特定奨励費)が1年1,300万円で採択された。これは、特定奨励費の性格を吟味したうえで申請したことが功を奏した。厚生労働科学研究費安全衛生総合研究事業では、1件(継続)が採択された。これら研究代表者として採択された課題の他にも、多くの課題に分担研究者として参加しており、新しい研究テーマの創出や調査・研究手法の開発の原資として大きな役割を担うことができた。
[産業安全保健エキスパート養成コース]産業安全保健エキスパート養成コースは、今年度も「知の市場」の枠組みの中で、労研による自立した事業として11期を開講した。今年度の活動については、引き続き株式会社クラレより資金的援助(寄付)を受けた。
 養成コースの修了者に対しては、その人材ネットワーク組織である「エキスパートネットワーク」への積極的な参加を依頼しており、労研セミナーの講師などとして、労研の活動への参加・支援を得ている。
[創立90周年記念シンポジウム]労働科学研究所創立90周年記念特別企画を夏と秋の2回実施した。夏企画は7月1~2日に「働き方の近未来と新しい労働科学」をテーマに、約40名の参加を得て、国立女性教育会館において合宿方式で開催した。秋期は「発展する労働科学と社会貢献」をテーマに、2011年11月18日、霞ヶ関ビル東海大学校友会館において開催した。第1部では、現在の労働科学研究所の学術研究・職場改善実践・教育・国際協力への取組を紹介した。第2部は大原ネットワークシンポジウムと位置づけ、大原謙一郎氏の基調講演および、大原ネットワーク(労働科学研究所、岡山大学資源植物科学研究所、法政大学大原社会問題研究所、倉敷中央病院、大原美術館)からのそれぞれのプレゼン後、社会貢献の形についてフロアも含めて議論し、「絆」と「情報発信」が要であることを再確認した。100名超の参加者を得て盛況であった。
[業務改善の取り組み]研究部門における収支構造の分析に基づき、研究者賃金体系の変更と事務部門の業務効率化について検討した。具体的な施策を2012年度から実施することとした 
 
Ⅰ.教育研修事業
1.クラレ寄附講座 産業安全保健エキスパート養成コース(第11期)
1)第11期産業安全保健エキスパート養成コースを、社会人教育ネットワーク「知の市場」、早稲田大学規範科学総合研究所の協力を得て実施した。
前期:1科目(基礎コース:7月)(於 早稲田大学西早稲田キャンパス)
後期:4科目(中級3コース:9月〜11月)(於 早稲田大学西早稲田キャンパス)、 (上級コース:9月〜12月)(於 労働科学研究所) 
 基礎コースでは6名の受講があり、3名が修了した。3名はいずれも中級コースも受講し、うち2名は安全、健康、職場環境の3科目すべて修了し、上級コース受講の資格を得た。中級コース3科目ののべ受講者は、23名であった。10期から継続受講しているものを含め、今年度に3科目を終了したものは計6名で、現在上級コース受講資格を持つのは14名となった。上級コースは3名が受講し、2名が修了した。この2名は「エキスパートの会」に参加することとなった。
2)労研サーバに設置したWebサイト「エキスパート・ネットワーク」を活用し、労研とエキスパートの情報共有、エキスパート活動に関する好事例の発掘とデータベース化を開始した。
 
2.作業環境測定士登録講習会(共通科目、選択科目)
   共通科目(第二種講習):   4回、受講者数 32名,合格者数 30
   選択科目(第一種講習):合計 12回、受講者数 59名、合格者数 54
 
3.環境省・環境調査研修所「石綿マニュアル法研修」(3回実施)
 
4.各種セミナー
 平成23(2011)年度労研セミナーとして、「情報を伝えることで化学物質管理が変わる!」「今年の熱中症対策のかなめ、「職場改善とメンタルヘルス」、「リスク管理のためのマスクと保護衣」「製品の使われ方−「想定外」を減らすことは出来るか−」「職場のいじめ・暴力・ハラスメントの予防と対策」、「睡眠とメンタルヘルス」、「若者と話が出来ない? それ、世代間のせい!?-意思疎通の阻害要因を検討する」の8テーマについて、東京、大阪、石巻において合計16回のセミナーを開催した。昨年度の延べ約220名を大きく上回る、延べ約480名の参加があった。2011.3.11の震災に対応した緊急セミナーとして「復旧・復興作業に携わる者のための呼吸用保護具(防護具)の適正使用に関する現地(宮城県石巻市)特別セミナー」を石巻で2回開催し、延べ80名の参加があった。また、労働科学研究所創立90周年記念特別企画として「働き方の近未来と新しい労働科学」をテーマとした宿泊型セミナーを2011年7月1日〜2日に国立女性教育会館で開催し、65名の参加を得た。
 
5.その他の教育・研修
(1)安全・ヒューマンファクター関係
・「社内研修の企画・実施に係わる業務」
・「平成23年度ヒューマンファクターに関する研修」
・「平成23年度班長ステップアップ研修」
・「RCA手法による事故事例分析研修」
・「病院等における災害防止対策研修会」
・「班長ステップアップ研修」(3箇所)
・「職場環境改善セミナー」
・「運転管理コース」研修」
 (2) 労働安全衛生に関する研修・講演等
・「中央労働学校」
・「運転安全」
・「安全衛生研修」
・「職場改善の進め方」
・「安全衛生研修」
・「マスク使用に関する説明会に係わる講師委託」
・「VDT作業の安全衛生研修」
・「使用者団体のための職場環境改善研修(国内研修)」
 
Ⅱ.学術調査研究事業
1.安全・安心・快適を確保するための人と環境のインタラクション
・文部科学省科学研究費補助金(基盤B)「多施設共同参加による針刺し切創予防のための対策指向モニタリングシステムの開発研究」(継課題)
・文部科学省科学研究費補助金(若手B)「繁忙感が組織のリスク要因に与える影響」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(若手B)「組織間安全文化評価ツールの開発」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(若手B)「車いす障害者の交通事故防止に向けた高視認性安全服・防護具の開発」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(基盤C)「ユーザと製品のインタラクション分析のためのアクト・ユーザ法の開発」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(基盤C)「インスリン自己注射器材のユーザビリティと安全性の向上に関する研究」(新規課題)
・「固定式介護リフトの人間工学的評価」
「リファレンス顔表情データベースの分析に関する業務委託」
「顔表情評定に関する請負契約」
・「適性検査」6月)
・「組織の安全性向上プログラム−SCAT調査−」
・「火力安全文化向上プログラムSCAT調査委託業務」
・「火力発電所における安全文化調査」
・「当直勤務形態変更に伴う影響緩和の調査研究」
・「病院・施設におけるベッド使用者の行動実態に関する共同研究」
・「高年齢労働者災害防止に関わる身体知覚機能測定」
・「適性検査」(12月)
・「組織の安全性向上プログラム-ヒアリング調査-」
・「景観に調和した地熱発電所のあり方に関するアンケート調査」
・「安全文化向上プログラムヒアリング調査委託業務」
・「視線データによるドライバ状態推定方法の開発に関する研究」
・「SCAT調査およびヒアリング」
 
2.健康とワーク・ライフ・バランス
・文部科学省科学研究費補助金(基盤B)「介護労働におけるコンサルテイションネットワーク活用による職場改善支援に関する研究」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(基盤B)「看護師の16時間2交代および8時間3交代勤務の負担の実態と軽減策に関する研究」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(基盤C)「非致死性脳・心臓疾患(過労死)発症前の慢性過労状態の解明と対策の提案」(継続課題)
 ・文部科学省科学研究費補助金(基盤C)「胎児の脳機能発達と母親のストレスとの関連−オリジナル胎動記録装置を用いた検討」(新規課題)
・文部科学省科学研究費補助金(基盤C)「新自由主義下における社会運動ユニオニズムの日仏比較」(継続課題)
 ・社団法人 日本医師会「医師の労働時間の設計基準に関する現場実証調査研究(ステップ3)」
 ・「福島第一原子力発電所産業医業務支援」
 ・「検査者のための超音波診断装置及び検査環境に関する人間工学的検討」
 ・「夜勤交代勤務改善の調査」
 ・「看護師WLBアンケート調査データ集計・分析」
 
3.リスクアセスメント・リスクマネジメント
・文部科学省科学研究費補助金(若手B)「より簡易・迅速な石綿分析手法の開発〜アジア諸国での石綿被害を予防するために〜」(継続課題)
 ・「平成23年度産業医等による学校給食調理場の職場巡視」
・「平成23年度石綿位相差顕微鏡法研修」
・「マニュアル類のチェック等の業務」
・「作業環境調査」
 
4.労働力の教育・養成支援に関する研究
 ・厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)「非正規雇用の一典型としての外国人労働者における労災・職業病リスクの解明と参加型手法による予防対策の確立」(継続課題)
・「新規若年労働者の安全確保に係わる調査研究」
 ・「鉄鋼産業における安全衛生(若年者用)初期教育プログラム」
 
5.国際協力
・「ウガンダ国保健インフラマネージメントを通じた保健サービス強化プロジェクト」
・ILO「安全衛生に関するマニュアル作成」
・「バングラデシュ職場環境改善セミナー」
 
6.競争的資金獲得
1)機関対象             1件   総額:13,000千円
文部科学省科学研究費補助金特定奨励費
 「日本人の労働と生活の歴史における労働科学的学術記録の収集と保管、公開に関する研究事業」(13,000千円  
(2)研究者個人対象 
・日本学術振興会 科学研究費補助金(新規・継続併せて12件、25,700千円)
・日本学術振興会 科学研究費補助金(分担 6件、1,300千円)
・厚生労働科学研究費補助金「労働安全衛生総合研究事業(継続 6,000千円)」
・厚生労働省科学研究費補助金(分担 51,100千円
 
Ⅲ. 国際協力活動事業
1.システム災害防止の安全文化に関する研究(中国、アジア)
(1)中国上海応用技術学院等との安全文化に関する共同研究の実施
 
2.参加型産業安全保健研修企画と人材ネットワークつくり(韓国、アジア、
アフリカ)
(1)第4回韓日参加型産業安全保健研修の企画(2012年5月に韓国で開催予定)
(2)開発途上国における参加型安全保健国際研修の企画運営(2011年 8月、ベトナム)
(3)国際協力事業団(JICA)による技術協力プロジェクト(アフリカの病院における5S-KAIZEN-TQM活動支援、受託事業2011-2014)
(4)ILO安全衛生世界大会(トルコ、イスタンブール、2011年9月)での研究成果報告
(5)国際産業保健学会(ICOH)(メキシコ、カンクン、2012年3月)での研究成果報告
 
3.参加型産業安全保健研修ツール等の開発研究
(1)グローバルウインドマニュアルの開発(ILO受託事業2011-2012)
(2)(財)国際労働財団(JILAF)によるインドにおけるPOSITIVEプログラム(タミル州)の実施支援と効果評価研究(受託)
(3)(財)海外技術者研修協会(AOTS)による使用者団体のための職場環境改善セミナーの講師派遣
(4)国際労働機関(ILO)発行「人間工学チェックポイント」「職業性ストレス対策マニュアル」「IEA/ICOH人間工学ガイドブック」等の翻訳出版準備
(5)国際化に関連した企業からの労働者の安全健康に関する相談対応、その 他の国際協力事業
 
Ⅳ.出版・情報サービス事業
1.出版刊行
(1)『労働科学』5冊 第87巻第2号〜第87巻第6号(隔月刊)
(2)『労働の科学』12冊 第66巻第4号〜第67巻第3号(月刊)
(3)単行本 2冊
  『労働者の放射線防護』(初版) 
  『非正規雇用と労働者の健康』(初版) 
 
2.情報サービス活動
(1)学術雑誌・研究図書購入整備  
組織的な図書の購入を中止しているが、受入を続けている学術雑誌、研究図書の受入整備をした。
2)文献複写サービス
外部からの複写依頼への対応を継続した。
(3)インターネットによる情報提供
   労働科学における女性労働研究を紹介するページの作成準備をした
 
 
Ⅴ.公益(共通)事業(維持会活動)
2011年度も引き続き、企業会員だけでなく、個人会員の拡大も進めた。セミナーは東京・大阪、石巻の3箇所で開催した。原則として各セミナー終了後には参加者と講師の意見交流会を開き、議論を深めることで、維持会員の要望の把握、維持会員間の情報交換、共同研究活動の推進に努めた。
 
1.維持会総会平成231019日(東京)、20日(大阪)
研究発表「製品の使われ方−「想定外」を減らすことは出来るか−」
 
2.ホームページでの情報発信
 2011年3月11日の震災対応として労働安全衛生分野における震災対応の情報を整理したページは2011年3月12日に立ち上げたが、平成23年度も継続的に情報収集と発信に努めた。新型インフルエンザに関する情報も流行時期にあわせて再整理した。ホームページの改良を進め、震災対応に関連した当研究所の活動のプレスリリースや、呼吸用保護具の適正使用の普及を目的に活動に取り組んでいるフィットテスト研究会のページを立ち上げ、企業の安全衛生担当者や現地で作業する人々への有用で信頼できる情報を発信した。